〔掲載〕インタビュー記事

インタビューを受けました

大学卒業後の1997年から銀行や不動産デベロッパーに勤め、現在はビルメン会社にいる私ですが、近い将来、定年を前に退職しようと思っています。自分の足で会社というものに入って、自分の手で会社を出て行こうとしているのです。なぜそのような考えに至ったのか。今回は、このことについてお話します。

日本人は、何かを始めるのは上手ですが、終わらせるのは苦手です。経済界を見ても終わらせ方を間違っている人たちばかりがいます。キャリアを積みに積み上げて、辞め時を失っている孫正義や柳井正、永守重信などがそうです。後進にとっては疎外要因でしかない。ベテランが従来と全く別の分野に進んでくれるのならいいのですが、日本人は歴史ある民族なので、同じことを続けるのが得意なのです。ただそれは、次に続く者の頭を押さえるという意味で、よくないと私は感じています。

平均寿命、健康寿命がどんどん延びていく中、年を重ねた人に頭を押さえられた後進たちは、例えば50代なのに若手扱いを受けるといった状況になっています。

考えてみてください。近衛文麿は45歳で首相になり、磯野波平は52歳、風の谷のナウシカのユパ様は45歳、ムスカ大佐は28歳、皆そのような時間軸です。昔は50歳や60歳以上の人が少なく、ましてや80代の老人が元気でいるということは珍しい時代でしたので、若くして大いに活躍する人がいたのでしょう。

しかしながら、現代は相対的に寿命が延ばされています。イトーヨーカ堂の創業者・伊藤雅俊は2023年3月に亡くなりましたが98歳でした。今は技術が発達し、たとえ体が不自由でもベッドの上から部下に指示を出すことができます。またそれは、衛星通信で世界中どこにでも届いてしまうので、部下はトップの指示に従わざるを得ない。こういったことが、若い後進たちにとって枷になっていると思います。私はそれを崩したいのです。

 寿命が延びて高齢化が進むことは、年金財政や医療保険財政も悪化させます。しかしながら、これらを一気に良化させる秘策があります。

 医療費の窓口負担割合を80歳以上は10割にすればいいのです。もしくは20割負担でもいいのではないかと思います。一方で、健康寿命も延びていますから、「みんな現役で」と謳い、年金支給開始年齢を100歳にします。その代わりに、100歳以上は年間に1億円を受け取るようにします。そうすると「1億円が近づいてくる!」といった具合に、皆が必死になって100歳まで現役で生きようとするでしょう。

 とはいえ、医療費の負担割合や年金支給開始年齢を引き上げることは、高齢者にとって納得できるものではありません。そういった政策をどのように進めていくのか。それにはまず、選挙の投票制度を変えるといいです。18歳の人は1人10票を持つようにし、20歳代は9票、30代は8票といった具合に、年齢が上がるにつれて持てる票数が下がっていく。そして80歳以上は1票とするのです。

 反対に、0歳児が■票と一番多くを持つ。18歳になるまで本人は投票できませんが、代わりにお母さんが投票できるようにする。例えば、子どもが3人以上いる女性は、1人あたり10票を加えて持つことができるようにする。30歳のお母さんがいたとしたら、本人の8票に加えて、3人の子どもの分の30票を加えて、合計で38票を持つことになります。株主総会で採用されている累進投票制度のイメージです。

 高齢化と共に深刻なのが少子化です。しかし、この少子化も止める方法があります。女性が出産可能な時期は限られています。たとえ平均寿命が200歳になっても、出産可能年齢が60歳まで延びるといったことはありません。一方で、平均寿命が延びていますから、女性の人生において、出産可能な時期が相対的にどんどん狭まっています。にもかかわらず、現代の女性たちは出産適齢期において、妊娠・出産に加えてキャリア形成や自己教育の必要性に駆られています。限られた時期にそれら全てを詰め込むのは無理があります。その点を解決しなければいけません。

 そこで私が提唱するのが「あとで勉強(あと勉)」です。大学や大学院への進学は、若いうちでないとダメだということはありません。30歳や40歳を超えてからでも可能です。そこで、女性は18歳を迎えてから若いうちは結婚、出産に向かうようにする。その後、子育てが落ち着いてから、勉強を進めればいいのです。ですから、まずは結婚相手を見つけて、一生をこの人と生きていくのだという覚悟を決めることです。これで結婚率の向上や出産率の向上につながります。

ここで一言付け加えると、女性の方は時が来ればしっかりと覚悟を決めることができます。好きな人が目の前に現れると「この人に添い遂げよう」と心の準備をすることができる。問題は男性の方です。「背が高くないから結婚できない」、「いい会社に勤めていないから結婚できない」などと言い訳ばかり言う人がいますが、「妻と子どもを守る」という覚悟さえ決まれば、ルックスや収入、キャリア、学歴などは一切関係ありません。

そういった意味では、前述した「あとで勉強」は、男性にも適しています。若いうちに結婚する相手を見つける。たとえアルバイトでもいいので、仕事があれば一生懸命にこなす。勉強はもっと後になってからすればいい。社会に出ると、東大出身だろうが、高卒だろうが中卒だろうが、一緒です。学歴を重ねるのに早い遅いの差はありません。後からどんどんキャリアと積むという意味では、アリババ創業者のジャック・マーもそうでした。ところが、現実は覚悟を決める男性がいないために、未婚率や少子化の問題が解決されないままなのです。そういう背景があることを今の政治家は全く理解していません。

人間は誰しもが父親と母親の2人から生まれます。その父親と母親もそれぞれが2人の親から生まれ、その親世代も、その上の世代の親から生まれているのです。その人たちが子どもを産んで育ててくれたから、今の私たちがいます。私たちは全世代の先祖に感謝しないといけません。

また、日本には偉人中の偉人と言ってもいい歴史上の人物がいます。最澄や空海、吉田松陰などがそうですが、彼らには残念ながら子どもがいません。であれば、彼らのすばらしい思想を受け継いでいくのは、その時々を生きる人とその子どもたちになります。それがずっと繰り返されて今に伝わっている。そして今後も未来の世代に受け継いでいかなくてはなりません。

すばらしい日本の歴史を受け継ぐ子どもたちを生み、育てていく。そういう人たちが必要なのですから、自分のことを結婚するに値しないなどと卑下する必要は全くありません。「自信がないから」「収入がないから」と引きこもっている場合ではないのです。

 高齢化や少子化の処方箋という建前から、人々はどのように生きるべきかを論じてきました。これら一連の話は、私がこれまでずっと抱えてきた研究テーマでもあります。

私は人間の研究が大好きで、人間マニアです。とある環境に置かれた人間が取ってきた行動の積み重ねが歴史なのです。歴史上の偉人たちも、皆が全能で俯瞰して人生を送ってきたわけではありません。その時々の限られた環境と情報の中で決断を繰り返してきたのです。持統天皇も、菅原道真や藤原道長だって、限られた中のその時々の決断で行動を起こしている。その決断、行動に至った原因は、例えば持統天皇であれば姉の息子が憎らしいから、と至ってシンプルなものです。そういった意味では現在の一般人と変わりはありません。

 そのように見ていくと、結局は人間が一番面白い。そして、人間はほかの人間を引き当てて人間たらしめるものでもあります。赤塚不二夫とタモリもそうです。タモリは赤塚不二夫の葬儀で、白紙の弔辞を読みながら「私はあなたの作品です」と言いました。二人の関係性には、誰が師匠で誰が弟子などとマウントの取り合いではなく、純粋に人間が人間を引き当てて取り込んでいるのが垣間見えました。

 では、どのような人間にほかの人間は付いて行くのか。そこを探ろうと、私は■年前から「真和塾」を主宰しています。「真」は真実、誠実、偽りのないものを指します。本質的であること、真理を表します。都合の悪いこと、ままならぬこと、うまくいかないことも当然含みます。「和」は調和、平和、和やかさを意味します。他と争うよりも自分に矢印を向けて自らを整えること。穏やかで、理念を共にする仲間と力を合わせて解決するありようを指します。古来から「和」は日本文化や精神を象徴する前向きで広がりのある言葉でもありました。この塾名には、決して内にこもるのではなく、意見の相違や考えの違いを認めて理解し合うことが大切なのだという思いが込められています。組織の拡大や経営者を育てていくことを目的にはしていません。塾生それぞれが学んだことを自分なりに理解して、後々に燃えるような人生を送ってくれればそれでいいと思っています。

 人口減少は日本に限ったことではありません。今世紀は世界の人口も必ず減ります。文明が発達すると、人間は皆、自分自身のことが大事になって自己陶酔と自己投資に血道を上げ、子孫を残さなくなります。これは摂理です。現在、世界の中で人口が増えているのは後進国です。インドは人口で世界一となりましたが、これは寿命が延びているのであって、既に出生率は2を切っています。今後、アフリカや中南米の後進国で文明が進んでいけば、世界の人口はますます減っていきます。

 解決するにはどうすればいいのか。寿命が延びた人生を大事に過ごしたあげく、100歳を超えて亡くなっていく。これでは高齢化が進むだけです。

 そうではなくて、もっと“命を粗末に”扱ってはどうでしょうか。とにかく若いうちに結婚をして子どもを作る。その後に、勉強でもキャリア形成でも徹底的にやる。その際は自分自身を粗末に扱うこと。男塾の江田島平八塾長は「男なら死ね」と言いました。崖から飛び降りる気持ちを持てということですね。そのほうが、守られた人生よりも生きている実感が湧くはずです。

 大事なことは、自己決定をし、そして実践すること。若い人であれば結婚をする実践、子どもを作る実践、後から勉強する実践。中年以上のサラリーマンであれば、後進のために会社を辞める実践。ぜひこれらをすべきです。

 かくして、冒頭で述べたように、私は遠くない将来に今勤めている会社を辞めるつもりです。そして、今まで論じてきたテーマについて、何かの形でアウトプットできないかと考えています。例えば、どこかの大学院に入って修士論文、博士論文をまとめてもいいですし、ちょうど今、司法試験予備試験の勉強を進めているので、弁護士になって世に訴えていくのも方法の一つかもしれません。もし弁護士になれたら、色々な人々のさまざまな相談に乗れる自信があります。ビルメン業界にいたおかげで、トイレ清掃の仕方や清掃単価まで知っています。そのような弁護士は日本中を見渡しても他にいないと思うので、今から考えても楽しみでなりません。                           了